春雨 (spring&rain)
鶴岡龍とマグネティックス
『-COMPLETO-』での収録時間は8分37秒。13曲入りの全曲集のなかで、最も長い曲です。この長さが、そのまま聴きどころになっています。
8分をどう使うか
歌謡曲の情緒を扱う曲は、普通は長くしません。4分から5分で言い切って、余韻は聴く側に預けるのが定石です。伸ばせば伸ばすほど、湿度が飽和して重くなる。
この曲は逆をやります。8分37秒かけて、乾かないままの湿度を持ち続ける。効いているのはダブの手つきです。ダブは元来、引き算と反響で時間を伸ばす技術です。音を抜き、残響を伸ばし、聴き手の耳が空白を埋めるのを待つ。その方法を、演歌や歌謡曲に近い旋律に対して使っている。
湿った旋律を、ダブの空間で長く保たせる。8分37秒はそれで成り立っています。
タグに並んでいるのは electronic、soul、disco、dub、reggae、そして yokohama。横断の幅は広いのに、聴いていて散らばりません。
借りずに、あの音を出している
この人の制作について、はっきり記録されている一文があります。ファースト・アルバム『LUVRAW』の紹介文にこうあります。
貴重なビンテージ機材やゴミのようなエフェクター、生楽器や最新機材、膨大なプラグインを思いつきで乱用し、所謂サンプリングは一切せずに全て生演奏、または緻密な打ち込みを過剰に編集し録音した
サンプリングを一切していない。 ここが、この一枚の作りを説明する鍵になっています。
トークボックス、ブギー、シティ・ソウル、レゲエとダブ。この人が扱っている音楽の系譜は、どれもサンプリングという技術と一緒に育ってきたものです。過去の録音の質感を借りてくることが、その音楽らしさの近道になっている。実際、その近道を通る作品のほうが多い。
それを一つも使わずに、あの年代の空気を出している。引用ではなく、再構築で得ているということです。
同じ文で、もう一箇所。「貴重なビンテージ機材」と「ゴミのようなエフェクター」が並列で書かれています。機材に序列をつけていない。 高いものと拾い物を同じ棚に置いて、鳴ったほうを採る。値段や由緒で選ばない基準が、この横断の幅と対応しています。
11人を集めて、最後は一人で締める
『-COMPLETO-』のクレジットを見ると、作詞作曲・プロデュース・ミックス・マスタリングのすべてが鶴岡龍。そのうえで、演奏には11人が名を連ねています。
- 鶴岡龍 — Talkbox, Synthsizer, Programing
- 有井理江子 — Keyboard
- 中久木八幡太郎 — Electric Bass
- Arban Sachs — Sax, Flute
- KASHIF(PPP)、DJ FRUITY、花村諭 — Electric Guitar
- 高橋一、A Shun Yonehara — Trumpet
- NOPPAL — Rap, Vocal
- シマダボーイ — Percussion
人をこれだけ集めておいて、マスタリングまで自分でやる。外に出せる工程を手元に残す作り方で、8分37秒という長さの判断も、そこに含まれているはずです。
こんな時、聴きたいかも(個人的にね)
窓は閉めきらないほうがよかった。外の音が少し入ってくる状態で、雨の降り出しに合わせて。8分あるので、降り始めから本降りまでを一曲でまたげます。
急いでいるときには向きません。時間を短縮してくれる種類の音ではないので。
出典
- Bandcamp — 鶴岡龍とマグネティックス - 春雨(spring&rain)(タグ・『-COMPLETO-』(2018) 収録という記載)
- Bandcamp — 鶴岡龍とマグネティックス / -COMPLETO-(原盤発売日 2018年11月1日・全13曲の構成と「春雨~For you~(Spring&Rain)」8分37秒・作詞作曲とプロデュース、ミックス、マスタリングが本人であること・全参加ミュージシャン)
- FNMNL — 鶴岡龍とマグネティックスによるファースト・アルバム『LUVRAW』がLPでリリース(制作方法についての引用・バンドのメンバー・音楽性の説明・IMAGECLUV / JET SET からの LP 化)
- 出自
- 横浜
- レーベル
- IMAGECLUV
- 収録
- -COMPLETO-
- 発表
- 2018年11月1日
- 出典
- https://luvraw.bandcamp.com/track/spring-rain