Veilleuse 音楽の常夜灯

KIMINOKO (I Wanna Be Your Child)

鶴岡龍とマグネティックス

先に立場を書いておきます。鶴岡龍は、僕が尊敬する先輩、鶴くんです。だから以下は身内の話として読んでもらってかまわない。

そのうえで、身内でなくても同じことを書くと思う点がひとつあるので、そこだけ先に。

トークボックスは、たいてい飛び道具として使われます。曲の途中で一度だけ出てきて、人の声ではない声で場をさらって、引っ込む。効果としては強いので、そういう使い方をするのが合理的でもある。

鶴くんはそれをしません。この曲で最初から最後まで前に立って歌っているのは、器械を通した声です。

「君の子になりたい」を、器械の声で言う

題は KIMINOKO、副題に I Wanna Be Your Child。君の子になりたい、という願いです。

歌詞の内容として、これはかなり生身の側にあります。甘えたい、預けたい、そちらの側になりたい。普通に歌えば、湿度が出すぎて扱いにくくなる種類の願いでしょう。それをトークボックスで言う。人間の喉から直接出てこない声で、いちばん人間的な願いを口にしている。

この距離の取り方が見事だと思います。生の声で歌えば、聴くほうは書いた人の事情を想像してしまう。器械を通すと、その手前で止まる。願いの内容だけが、誰のものでもない形で置かれる。だから聞いていて重くならないのに、言っていることの切実さは減らない。

トークボックスで叙情をやり切る人は、そう多くありません。ファンクやブギーの文脈でこの機材を使う人は大勢いても、その声で哀切を担当させる発想はほとんど見かけない。ここが鶴岡龍という人の、はっきり固有の場所だと思います。

演奏している人たち

この曲のクレジットは以下のとおりです。

  • 鶴岡龍Talkbox, Synthsizer
  • 有井理江子Keyboard
  • 中久木八幡太郎Electric Bass, Electric Guitar
  • Arban SachsSax

打ち込みで固めていません。鍵盤、ベース、ギター、サックスがちゃんと人の手で入っている。トークボックスという最も機械寄りの声を、最も生身の演奏で支えている構図です。

曲は2016年のアルバム『LUVRAW』に収められ、のちに全曲集『-COMPLETO-』にも入っています。タグには electronic、soul、disco、dub、latin、reggae、talkbox、そして yokohama。並べただけで、この人がどこに立っているかがわかる。

名前を足さずに、剥がした人

経歴のなかで一度、目を引く判断があります。

この人はかつて LUVRAW という名前で、トークボックスの2人組 LUVRAW & BTB として活動していました。2010年のアルバム『ヨコハマ・シティ・ブリーズ』には、サイプレス上野、やけのはら、PUNPEE、S.L.A.C.K. といった面々が参加している。Pan Pacific Playa の一員でもありました。

2014年に PPP を離れ、ユニットの活動も止めます。理由として伝えられているのは「心境の変化」。そして2016年、LUVRAW という名前を鶴岡龍という本名に戻して、鶴岡龍とマグネティックスとして最初のソロ作を出した。

普通は逆の方向に進みます。本名から芸名へ、芸名からさらに大きな看板へ。名前は足していくものです。それを剥がして本名一つに戻り、しかもそこから最も個性的な作品を作り始めた。順番として、なかなか真似のできないことをやっている。

こんな時、聴きたいかも(個人的にね)

ひとりのほうが近くまで来る声だと思います。人と一緒にいるときには、同じ距離まで来なかった。帰りの道の、もう誰にも会わないと決めた区間で。

音量は小さめでも届きます。トークボックスは大きくすると輪郭が硬くなるので、絞ったほうがよかった。

出典

出自
横浜
レーベル
IMAGECLUV
収録
LUVRAW / -COMPLETO-
発表
2016年
出典
https://luvraw.bandcamp.com/track/kiminoko-i-wanna-be-your-child

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