Veilleuse 音楽の常夜灯

dirty dancer (A COLORS SHOW)

Orion Sun

制作COLORSxSTUDIOS

背景はくすんだ薔薇色が一枚。マイクが一本。着ているのは紺のTシャツと紺のスラックスで、それ以外は何も映らない。Orion Sun がその部屋で「dirty dancer」を一度だけ歌った記録です。

何も置かない部屋のほうが強い

A COLORS SHOW は、ドイツを拠点にする COLORSxSTUDIOS の枠。2016年2月に Philipp Starcke、Felix Glasmeyer、Steve Legrand の3人が立ち上げました。掲げている言葉は「All COLORS, no genres」。

作りは徹底して単純です。単色の背景の前に立って、マイクの前で一曲だけ歌う。NPR の Tiny Desk が数曲まとめて演奏させるのに対して、こちらは一曲で終わる。背景の色は、曲とその人の空気に合うものが選ばれます。

この引き算が効きすぎました。いまではドージャ・キャットやコモンのような名前がベルリンまで飛んで出演します。新曲の初披露にこの枠を使う人もいる。無名の人を紹介する場所として始まったものが、装飾を全部取り払った状態で聴かせたい人の場所に変わっている。

歌っているのは誰か

Orion Sun はティファニー・モーリーン・マジェットのひとり名義。ニュージャージー州マウントローレルで育ち、音楽はフィラデルフィアで始めた人です。2013年に「Voicemail」を YouTube に上げたのが最初で、その後フィラデルフィアのアンダーグラウンドの集団 The Forest に加わっています。

2017年にミックステープ『A Collection of Fleeting Moments and Daydreams』、2020年にファースト・アルバム『Hold Space for Me』を Mom + Pop から。オルタナティヴR&Bとインディー・ロックの間にいる、と説明されることが多い。影響元として本人が挙げているのは、ニーナ・シモン、ビリー・ホリデイ、エラ・フィッツジェラルド。歌手の名前ばかりが並ぶのは、この人の音を聴くと納得がいきます。

「dirty dancer」は2022年の曲で、スタジオ版とこのCOLORS版が、別々のシングルとして出ています。どちらもアルバムには入っていません。COLORS版のリリースは2022年4月4日。

逃げ場のない一曲

単色の背景は、隠れる場所がないという意味でもあります。バンドの音圧も、映像の編集も、ロケ地の説得力も使えない。目に入るのは薔薇色と紺の取り合わせだけで、あとは声と立ち方しか残らない。

そこで Orion Sun は、声を張らない側を選んでいます。マイクに近い距離のまま、ささやきの手前で通していく。音量で空間を埋めるのではなく、聴く側を自分のほうへ近づけさせる作り。だから小さい音で流していても、耳のほうが勝手に寄っていきます。

歌詞は踊りの話をしているのに、体はほとんど動きません。その差が最後まで残ります。

踊る曲を、踊らずに歌う。

スタジオ版と並べて聴くと、この版がいかに削ってあるかがわかります。どちらが上ということはなくて、削ったほうが伝わる日がある、という話です。

こんな時、聴きたいかも(個人的にね)

耳のほうが勝手に寄っていく曲なので、近い装置が合いました。灯りを落として、イヤホンで。

昼に試したら、声の細さが部屋の明るさに負けた。ただ、うちの昼が明るすぎるだけかもしれません。

出典

出自
ニュージャージー州マウントローレル育ち/フィラデルフィアで活動を始める
レーベル
Mom + Pop Music
収録
dirty dancer - A COLORS SHOW(シングル)
発表
2022年4月4日
出典
https://youtu.be/jwBR6MaBz60

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