Veilleuse 音楽の常夜灯

Cascade

Floating Points

説明の冒頭が言い切っています。

Cascade is an eruption of unfinished business

未消化のものの噴出、と。この一枚がどこから出てきたかを説明する一文です。

何が未消化だったのか

サム・シェパードは前作『Crush』(2019年11月)のあと、ダンスフロアから離れた仕事をしています。バレエのためのスコア『Mere Mortals』、そしてファラオ・サンダースとの『Promises』。

どちらも評価の高い仕事で、しかもフロアの音楽ではありません。その期間に溜まったフロアへの渇望が、この一枚になったと説明されています。2022年後期、カリフォルニアの砂漠で作られた。

砂漠で、クラブの曲を作っている。いちばん人のいない場所で、人が集まる場所のための音を書いていることになります。渇望から出てきたという説明と、この場所の選び方は矛盾しません。手元にフロアがないほうが、フロアの像は鮮明になる。

マンチェスターが曲名に出てくる

収録曲の題を見ると、出身地の固有名詞が混ざっています。

  1. Vocoder [Club Mix]7分31秒
  2. Key1037分22秒
  3. Birth40004分46秒
  4. Del Oro6分14秒
  5. Fast Forward7分38秒
  6. Ocotillo8分43秒
  7. Afflecks Palace6分38秒
  8. Tilt Shift4分40秒
  9. Ablaze3分57秒

Key103 はマンチェスターのラジオ局。Afflecks Palace はマンチェスターの、古着屋やレコード屋が入った建物です。この街の音楽文化——レコード店やラジオ——からの影響が反映された作品だと説明されています。

一方で Del Oro と Ocotillo は、どちらもアメリカ南西部の砂漠の語です。オコティージョは砂漠に生える植物の名前。

マンチェスターの記憶と、カリフォルニアの砂漠が、曲名の層として交互に置かれている。 作った場所と、音の出どころの場所が別で、その両方が題に残っている。

音の中身としては、Buchla のリズムと実験的なハウス/エレクトロニクス。前作『Crush』の発展を目指した作りとされています。1曲が最長8分を超えて展開する設計で、9曲で57分ほど。

「Cascade」という題

カスケードは、段差を落ちていく水の流れ。段になっているのがこの語の要点で、一直線に落ちるのではなく、いくつもの段を経て下へ行く。

未消化のものが噴出したという説明と、段を踏んで落ちる題。溜まったものを一気に出すのではなく、段差を作って流しているという自己申告として読めます。9曲を4分から8分の幅で配置して、長い曲と短い曲を交互に置いた並びも、それに対応している。

レーベルは Ninja Tune。タグは electronic、jazz、united kingdom、downtempo、house。jazz が残っているのは、この人の場合は経歴のほうの話でしょう。

こんな時、聴きたいかも(個人的にね)

長い作業の途中で入れ替える一枚として使ったのがよかった。集中が切れかけたあたりで。1曲が長いので、次に何が来るかを気にしなくて済む。

フロアの音として作られているので、家で小さくかけると本来の用途からは外れます。それでも成立するのは、砂漠で書かれた分の静けさが残っているからかもしれない、という程度の感想です。

出典

  • BandcampCascade / Floating Points(2024年9月13日リリース・サム・シェパードという本名・全9曲と収録時間・「Cascade is an eruption of unfinished business」という説明文・2022年後期にカリフォルニアの砂漠で制作されたこと・バレエスコア『Mere Mortals』とファラオ・サンダースとの『Promises』のあとにフロアへの渇望から生まれたこと・前作『Crush』(2019年11月)の発展という位置づけ・Buchla のリズム・マンチェスターの音楽文化(レコード店や Key103)からの影響・Ninja Tune・タグ)
レーベル
Ninja Tune
収録
Cascade
発表
2024年9月13日
出典
https://floatingpoints.bandcamp.com/album/cascade

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