Grist
drumcorps
1曲目の題が「Botch Up and Die」、3曲目が「Pig Destroyer Destroyer」。切り刻んだ相手のバンド名を、そのまま曲名に書いてあります。
切った相手の名前を書く
ハードコアやメタルのバンドの音源を切って、ジャングルのブレイクの上に並べ直したアルバムです。Botch と Pig Destroyer のほかに、前身になった2枚の EP では Converge、On Broken Wings、Cave In が使われていた、と AllMusic の経歴に書かれています。本人は元ネタの全部を数えていません。サンプリングの出どころを集めた WhoSampled というサイトについて、こう言っています。
Oh, I have no idea. There's a gigantic folder. I would say WhoSampled has got about 50% of the sources.
(さあ、分からない。巨大なフォルダがある。WhoSampled が見つけているのは半分くらいだと思う。)
ただし、何を切るかは決めています。
After doing this stuff a while, I realized that whatever you sample, you are promoting, so I keep it to my favorites mostly.
(しばらくやって気づいたのは、サンプリングした相手は宣伝することになる、ということ。だから、だいたい自分の好きなものに絞っている。)
自分で配信した版には、1行だけ注記が付いています。
All pieces recorded and mashed in Berlin from 2005-2006, with utmost respect to the source material.
(全曲、2005年から2006年にベルリンで録音し、混ぜ合わせた。元の音源に最大の敬意をもって。)
育ったのはマサチューセッツで、ウースターの The Espresso Bar という年齢制限のないライブハウスで Converge や Cave In や Bane を見ています。ハードコアは、いま生きているフォーク・ミュージックで、人々の音楽だ、という言い方を本人がしています。前身の EP で切った Converge と Cave In は、同じマサチューセッツのバンドです。
ビール箱の上のターンテーブル
2003年にベルリンへ移り、2005年に drumcorps を始めました。『Grist』はフリードリヒスハインのアパートの寝室で作られています。恋人が台所にいて、本人は寝室兼スタジオにいました。ターンテーブルは、酒屋で1ユーロの保証金を払うと山ほど手に入る、プラスチックのビール箱の上に載っていました。
道具は Ableton と、初代の Macintosh G5 です。本人はチーズおろしと呼んでいます。
It was the first Macintosh tower G5, the cheese grater, the one that sounds like a jumbo jet taking off under your desk! Part of the reason I gravitated towards heavy music was that blasted fan sound.
(初代の G5 タワー、チーズおろし、机の下でジャンボジェットが離陸するみたいな音がするやつ。重い音楽に寄っていった理由の一部は、あのファンの音だった。)
切って、並べて、また切る、の繰り返しです。編集の量が多すぎて、クリックで手を痛めた、と日本のインタビューで話しています。窓の外は、瓶が転がる音、近くのバーのビリヤードの音、犬、パンクとネオナチの喧嘩、警察のバンのディーゼル。
When the music is heavy, everything else has gotta be cozy, is my general way. Heavy music is exhausting, and you need a place of peace & rest.
(音楽が重いときは、それ以外は全部くつろげるようにしておく、というのが自分のやり方。重い音楽は消耗するから、休める場所が要る。)
何のためのアルバムかも、本人の言葉で残っています。
Grist is a concept record, to give an actual soundtrack to this feeling of fractured humanity by technology. Make it actually sound that way! We're being spiritually sliced up by modern life? How about literally slice up the samples!
(『Grist』はコンセプト・アルバムで、技術に人間が砕かれていく感じに、実際のサウンドトラックを付けようとした。本当にそういう音にする。現代の生活に精神が切り刻まれている? なら、サンプルを文字どおり切り刻めばいい。)
2枚の EP を足すと1枚になる
2005年の「RMX or Die」(Kriss、10インチ)と、2006年の「Live & Regret」(Cock Rock Disco、12インチ)です。本人の説明では、1枚目は2枚目の前奏で、2枚を足すと『Grist』になります。Cock Rock Disco を運営していた Jason Forrest が、アルバムにするよう持ちかけました。
We had a good chat about it and he got it immediately.
(きちんと話をして、彼はすぐに分かってくれた。)
CD は2006年10月17日、Ad Noiseam と Cock Rock Disco の共同で出ています。11曲、34分40秒。ギターを本人が重ねていて、マスタリングは Loop-o。自分で配信した版は5日後の10月22日で、Bandcamp の日付も同じです。レーベルの紹介文は、ありがちなグラインドコアのマッシュアップではなく、リフの多くをプロデューサー本人が弾き、元の音源を限界まで加工している、と書いています。Igloo Magazine のレビューの締めは「You either dance or die with Drumcorps」でした。
翌2007年、リンツの Prix Ars Electronica で Award of Distinction を受けています。同じ年に Ars Electronica でライブとトークをした映像が残っています。Ad Noiseam については、後年の取材で、ヴァイナルの多くが何年も倉庫に置かれたままで宣伝もされなかった、と話しています。
『Grist』のあと、音を全部自分で出すことに決めました。
When you sample, you're forever vicariously shaking your fist in the air. When you do it yourself, it's all yours, and it has that much more gravitas.
(サンプリングしているあいだは、ずっと他人の代わりに拳を振り上げている。自分でやれば、全部自分のもので、そのぶん重みが出る。)
2022年の『Creatures』は、音楽もアートワークもミックスもマスタリングも本人です。『Creatures』については以前に書きました。切って作った1枚と、全部自分で鳴らした1枚が、16年を挟んで並びます。
出典
- Bandcamp — Grist / drumcorps(11曲と各曲の長さ・日付が2006年10月22日であること・タグが breakcore、hardcore punk、megamashup、metal、Amsterdam であること)
- Discogs — Drumcorps「Grist」CD(Ad Noiseam adn 70 / Cock Rock Disco Crock013、2006年10月17日)(CD の日付とレーベル・追加ギターが Aaron Spectre、マスタリングが Loop-o であること)
- Discogs — Drumcorps「Grist」自主配信版(2006年10月22日)(「All pieces recorded and mashed in Berlin from 2005-2006, with utmost respect to the source material.」の注記)
- Cock Rock Disco — Drumcorps – Grist (Crock013)(2006年10月17日にヴァイナルと CD で出たこと・リフの多くを本人が弾き元の音源を限界まで加工しているという紹介文)
- aaron spectre — interview: berlin & grist & the process(Anomaly Index の Michael Tau による2020年8月24日のインタビューの完全版)(Ableton とヴァイナルからのサンプリングで作ったこと・G5 のファンの音・フリードリヒスハインの寝室兼スタジオとビール箱の上のターンテーブル・窓の外の音・「heavy なときは他は cozy に」・コンセプトについての言葉・元ネタの半分しか WhoSampled に載っていないこと・サンプリングは宣伝になるので好きなものに絞っていること・EP 2枚を足すと『Grist』になること・Jason Forrest が持ちかけたこと・Ad Noiseam についての言葉)
- aaron spectre — interview: breakcore guidebook japan(梅ヶ谷雄太、2019年6月3日)(マサチューセッツの森の町で育ったこと・ウースターの The Espresso Bar・Converge、Cave In、Bane・ハードコアは people's music だという言葉・G5 と Ableton と CD でクリックしすぎて手を痛めたこと・サンプリングは他人の代わりに拳を振り上げることだという言葉・ライブにギターを入れたときの感触)
- AllMusic — Drumcorps(2003年にベルリンへ移ったこと・2005年に drumcorps を始めたこと・「RMX or Die」(Kriss)が Converge と On Broken Wings、「Live and Regret」(Cock Rock Disco)が Botch と Cave In を使っていること・『Grist』が2枚の EP と追加曲をまとめたものであること・2007年の Prix Ars Electronica で Award of Distinction を受けたこと)
- Igloo Magazine — Drumcorps :: Grist(2006年11月12日)(「You either dance or die with Drumcorps」)
- YouTube — Grist Drumcorps @ Ars Electronica 2007・Grist Drumcorps Talk & Video @ Ars Electronica 2007(2007年の Ars Electronica でのライブとトークの映像)
- drumcorps.co — discography(「RMX or Die」が2005年、「Live & Regret」が2006年、『Grist』の CD が2006年で12インチが2007年であること)
- 出自
- マサチューセッツ出身/アムステルダム在住(この1枚はベルリンで録音)
- レーベル
- Ad Noiseam / Cock Rock Disco
- 収録
- Grist(アルバム、11曲)
- 発表
- 2006年10月17日
- 出典
- https://drumcorps.bandcamp.com/album/grist